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2010/7より開始。 週に一回ぐらいゲームの感想とか雑談とか雑談とか小説とか雑談を書いていきたい。
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 あの夜から数週間。
 クライフと名乗る男と出会った夜。少女――ユウキの運命が変わった夜。
 少女の腕に光る『環』が変えた夜。
 その夜からしばらく経ち、二日に一回ほどのペースでユウキは世間が眠りにつく時間にクライフから魔法を教わっていた。


 クライフが放り投げた風船。
 それが数メートル離れた少女の手のひらから生まれ出た火弾に当たり爆ぜる。
「次!」
 クライフの声、合わせてユウキに火弾を放つ。
「それならっ!」
 ユウキは両手を叩き左の手をそれに合わせ伸ばす。突風。
 その手の先から風が生まれ、回り火弾を切り裂いた。
「おーけーおーけー、上出来上出来」
 嬉しそうにクライフは拍手をならし、その結果に満足げだ。

「その『環』の平常状態の使い方は慣れたみたいだね」
 じゃあ、と前置きを置いてクライフ。
「そろそろ、全身で試してみようか」

拍手


+ + + + + + + + + +


 ユウキの腕輪――元素環――を差して言った。
「全身……?」
「今までは、普段着のままで海とかプールで泳ぐようなものであんまり効率が良くなかったんだ。
 その『環』を全力で使おうと言うなら、それに適した形態に身体と、『環』を作り変えるんだ」
「身体を作り変えるって大丈夫なんですか、それ」
 少女の言葉は不安を隠してはいない。
「いや、言い方が悪かった。ありていに言うなら変身、とかの方が分かりいいかな。
 身につけている衣服を変質させて、魔法を使うのに適した、効率よく力を全身に廻らせる形態にするってとこかな」
「それは、文字通り魔法使いとかっぽいですね。で、それはどういう風にするんですか?」
 打って変わって満更ではないようにユウキ。
「『環』を使う、ってイメージしながら変わる言葉を……変身、あたりを言えば変わる。と、聞いた」
「とりあえずぴんくるぴんくるとかマハリクなんたらとかじゃないのなら安心ですが」
 いい年して流石にそれは恥ずかしいという心がユウキにはあったのだろう。
 少しばかりほほを染め。
「じゃぁ……やってみます」
 深く息を吸い、吐く。深呼吸を数度繰り返し。両足は肩幅。瞳は閉じられ、身体からは力が抜けている。
 そのまま、何かに動かされるよう頭上に持っていった左手の『環』で円を描くように左腕を回し、再度頭上に持っていき大きな輪を形成。
 『環』の軌跡が光り輝くような感覚をクライフが持った時。
 少女は眼を開き、『環』の軌跡で形作られた円の中心に左手を素早く伸ばし。
――変身――
と、空に響くような声。
 瞬間、円に伸ばした左手首の『環』を中心に光の奔流が走りユウキの姿は光に包まれる。
「ユウキ君!?」
「はい」
 クライフの驚いた声にユウキは平常通りの声で答えた。
「一瞬、ぴかっとして驚いたんですけど特に身体は変わりないですね」
「――――!?」
 ユウキを見てクライフが何か言いたげにしていた。その視線は少女の身体、衣服。
 少女はその視線に従い自分の身体へと視線を落とす。
「って、なんなんですか。この格好はーー!?」

魔法使いの環 第二話 『――そう、なるんですかね。やっぱり』




 自らが作ったみそ汁を飲み、食のシメとする。
 それはユウキの朝の習慣になっていた。
 数カ月おきに海外へと旅立つ両親へは一抹の寂しさを感じずには居られなかった彼女だが、ここしばらくはそのようなものは感じる間が無かった。
「ユウキ君~ココアの粉はどこだったかなぁ~」
 部屋着を多少だらしなく見えるようにも着流し、眼鏡を携え長く伸ばした髪を肩のあたりで一本に結んでいる男。
 この家の居候であるクライフだ。
「それなら、そこの戸棚の引き出しですよ」
「ん、ありがと」
 上機嫌に、ココアを取りだし牛乳を準備している。
「ところで昨日の夜からこの部屋の時計、止まってたんだけど君はバスに間に合うのかい?」
 ニヤリ、と言う擬音が似合いそうなぐらいの表情だった。
 驚いてユウキは時計を確認する。
「間に合うわけ無いじゃないですか! クライフさんの意地悪ー! カバンとってくださいー!!」
「はいよ」
 クライフから受け取ったカバンを手に取り、玄関から転がるようにユウキは駆けだす。
「戸締りお願いしますねー!」
「はーいはい、と

さって、今日もお仕事がんばりますか」




 ところ変わって、こちらはユウキの通う学校の教室。
 予鈴がなろうという時間だが空席、ユウキの席の付近に3人の影があった。
「来ませんわね」
 すらっと伸びた手足、それに長く伸ばした髪を櫛で梳かしながらその席を眺める少女。
「今日は遅いな……」
 黒髪、黒眼。だが、それだけではない。左目に黒い眼帯をし壁に背を預ける男。
「眠い」
 眼鏡を磨き、汚れが無いのを確認して再度磨き、かける男。

 そのような三者三様な者達だったが、聞き覚えのある足音に眼帯の男がいの一番に反応する。
「来たみたいだな」
「え? 足音もしませんが――」
 髪を梳かしていた少女は、男の言葉に反応するがその足音には気付かない。
 数秒後、走る音が響きドアがあわただしく開けられ、その音にクラスメートが少し目をやるが各々していた事へと戻った。
「はぁ……なんとか間に合いましたぁ~」
「おはようございます、ユウキさん。貴女との勝負、今日は私の勝ちですわね」
「おぅ、遅かったな今日は」
「おはよう」
 息を切らしかけているユウキに朝のあいさつを交わす三人。
「おはようございます、エメラ。鳳凰寺君、ライト君」
 髪をすいていた少女がエメラ、眼帯をしている男が鳳凰寺。眼鏡の男がライト。
 この四人は同じ部活仲間でもあった。
「あの居候さんのせいか? 遅くなったのは」
「まぁ、私としては勝率が上がって万々歳なのですがあまりこのような勝ちが増えますと……」
「いや、クライフさんのせいではないんですが、ってエメラ。私は勝負してるつもりなんて無いよ」
「まぁ眠い」
「私が毎度毎度勝手に言っている事なのですから、貴女は気にしなくてもよろしくてよ」
 そんな他愛のない会話をしていると教室前方のドアが乱暴に開けられ
「よーし! 貴様等静かにしておけ! これからHRを始める」
 ユウキ達と同じように会話していたクラス員はあわただしく席に戻りエメラはユウキの隣の席へと着く。

 綿のズボンに、ワイシャツ。その上にジャージを羽織り顔には常にサングラスが煌めく。
ユウキ達の担任である、轟。名をトドロキ=ゴウと言った。
「相変わらず、教職には見えない人ですわね」
 小声で口を開いたのはエメラ。
「でも、姿だけで結構いい先生で私は好きですよ。」
「今日の連絡事項は特に――と。下校時不審な集団が目撃される事が増えてるから見かけても近寄るなよ。
俺に連絡するか、もしくはとっとと見つからないように帰るか、だ。
 あと家庭訪問を順番通りに行っていくからな、連絡を忘れないように。
以上! 今日も怪我なく勉学に励むように!!」
 トドロキのお決まりの文句でHRは閉じられ一時間目の始まるわずかな間にも鳳凰寺がユウキとエメラの席にやってきて。
「まったく。学年変わって担任が変わったかと思えばアレだもんなぁ」
 呆れたように言う鳳凰寺だったが、ユウキとエメラは見なかった事にするように1時間目の準備をしていた。
「おいおい、無視することは無いだろ?」
「で、誰がアレなのかじっくりと聴かせてもらおうか?」
 男の肩に手が優しく置かれた。だが、その手は肩を握りつぶさんが如く力がこめられている。
「嫌だな、先生。俺は先生がとても素敵な男だって話をしていたんですがって、肩が肩が! なんでここにいるの先生!? 授業の準備は!?」
「一時間目は俺の近現代史の時間だろうが?」
「そ、そういえばそうでしたぁー!!」
(鳳凰寺君……)
(まったく……明ってば)



「と、そんなわけで断たれたかと思われていた魔法の研究が行われ、かつ行使できる者達はいた。
 すなわち所謂魔法使いと言うものだな。だが、数年前の魔術大戦を経た今でも謎は多く、さらに近年『ヴァイス』と名乗る魔術結社が表立った活動を開始し、魔法と言うものに対するイメージ改善に当たっている、と。
んで、市街地での魔法。例えるなら町中でミサイルぶっ放すようなことされたらたまったもんじゃない。
 それに対する抑止力として」
 黒板へと板書しながら、トドロキはその補足説明を行う。
「まぁ、個人的には科学も魔法も使う者の――これが見本だ!いい加減に起きろ!」
 トドロキの怒声。同時に右手のチョークが放たれた。
 その白き石灰は風を切り、目標。ライトの頭へと真っ直ぐに飛び、鈍い音を立て砕け散った。
「うぐっ……!? いってぇ……」
「俺の授業で寝るなと言っていただろう。じゃあ今言おうとしていた事について答えてみろ」
 眼鏡を直しつつライトは「分かりません」とばっさり答える。
「ふふふふふ……! そうだろうな、なんて言ったって今から説明するんだからな!」
 非常に。心の底から楽しそうにトドロキは笑う。
「あのトコロが無ければ素直に尊敬できる先生なのですが」
 エメラはユウキにだけ聞こえるように呟き。
「本当。あのトコロが良かったら――」
「で、誰か何か言ったかな?」
 笑顔。まったくもっての笑顔を浮かべサングラス越しに教室を見渡すもユウキとエメラを注意しているトドロキ。
「で、話は戻すが『ヴァイス』が抑止力として行っているのが街、市ごとに張っている結界。いわゆる街結界だ。
この結界と言うものは魔法と言われるもの全てを押さえ、それによる被害を押さえる、と言われている。
 言われている、と言うのは正直――――時間か」
 チャイムが鳴るか早いか、トドロキは授業を纏める。
「次回はもう少し細かく教えるが、復習だけは忘れないように」







「ありがとうございました~」
 バスのステップを両手に買い物袋を抱えながらも軽快に降りるユウキ。
 買い物袋の中には食材から何から冷蔵庫の友が多く詰め込まれていた。
 エメラの「部活には出ませんの?」という問いに今日は特売だから帰りたいと伝えた旨の結果だ。
 苦笑いしつつもエメラは、先輩達には伝えておく。私に言ってくださればという言葉を出しかけていたがユウキは笑って首を振って止めていた。「友達なんだから」と。
 バス停を離れ歩き出すユウキ。日は沈みかけているが未だ明るい。
 学校からバス停は近いが、寄り道しようとなるとユウキの家は町中からは少し離れた場所になり、緑の木々などがかなり豊富な立地だった。ユウキが夜の特訓をするには最適な立地だとも言える。
 その緑豊かな木々の奥、ユウキの目に不自然に倒れる木の姿。
「あれは!」
 駆けだす。その木が倒れる方向へ。ユウキの付近にも数人の人物がいたが彼女以外は気付かず歩を進めていた。



 木々の破壊された中心。彼ら、と言っていいのか中心の男以外はどうにも存在感が希薄だ。
 うっすらと後ろが透けているようにもユウキの目には映った。まるで、水面に映った影のように。
 中心の男はその影達に指示を出し木々を薙ぎ払わせていた。
「この近辺にあるらしいのだが……貴様等てきとうに薙ぎ払っておけ!」
 そこに声が響いた。――やめなさい、と。
 男は振り向き、その声の主を見る。まだ幼さを残し大人の影を踏もうとしている少女。ユウキだ。
「お嬢ちゃん、何か言ったかな。結界破って見られたのは不味かったが見なかった事にして帰りな。そうすれば   しばらくは平和に生きる事が出来るからな」
――そんなことはできません。
 静かに、はっきりと言った。
「じゃあ力づくで黙らせる。子供を手にするのは趣味じゃないんだが、かかれ貴様等」
 ユウキに迫る影達。少女は臆することなくそれに向かい右手を延ばし。
――炎っ。
 クライフから教わっていた通りに『実態が無いもの、媒介を介していない純粋な魔術の集合体ならその『環』を変身させなくても魔法を打ちだすだけで倒せる』それを実行する。
「そうか……」
 男は納得したように頷き。
「最近この街で我々の邪魔をしているのはお嬢ちゃんか。それにその左の『環』見過ごすわけにはいかんな」
――そう、なるんですかね。やっぱり。
「それでは、事情が変わった。邪魔者は消えてもらおう、手土産もできる」
 男の身体か出る雰囲気が変わる。ユウキを敵とはっきりと認識し、『環』も理解している。
――強敵さん、なんですね。
 左手首の『環』をひとなで、そのまま身体の正面で腕を回し頭頂から膝ぐらいまでの大きさの円を描き、その円を左腕で突き貫いた。
「変身!」
 ユウキのその言葉と同時に彼女の身体は光に包まれ、衣服も光の粒子となるが一瞬で別の形を成し彼女の身に纏わせる。
「『環』の使い方を……!?」
 男は年端もいかぬ少女が『環』の力の一歩を踏み出している事に驚くが、すぐにユウキへと影を襲いかからせる。
 先だってと同様、鎧袖一触とはこのことと言うのを思い知らされる結果に終わったが。
 しかし、少女の姿。それは違う。青を基調としたドレスに白のラインが数本、胸と腰の赤いリボンに、頭にはヘッドドレス。
 そして目にした者への最大の特徴。その手に握られるは『環』の変貌の姿。
 バット、釘が打ち込まれたバット。
 スカートとリボンを風になびかせて。
「魔法使いユウキ、参上!」
 言い放ち、まるで予告ホームランを彷彿とさせるようにバットを男へ向けた。
「そうかそうか! フフフフフ……ハハハ……フーハッハッハ! そうか、貴様が、貴様が我々『アルト』の邪魔をしてくれていたのか! しかも『環』まで持っているとはな!!
 今でも大人しくその『環』を渡してくれれば命は助けるぞ! 魔法使い!」
「そんな安っぽい脅しに従うぐらいならこんな事はしません! アナタ方こそ大人しく帰っていただけませんか!」
 男の言葉を跳ね返すようにユウキ。
「実に、実に、実に残念!」
 裏腹に嬉しそうな笑顔で「かかれ!」 残りの影をユウキへとけし掛ける。
 影は耳障りな音を出しながらユウキの四肢へと迫る。
「風よ……集めて『カマイタチ』!」
 ユウキはバットへ風を集め、剃刀のように風を纏わせ大きく振るう。両腕に迫っていた影はその一振りで消し絶えたが、両足。そちらには一手遅く押さえつけられ足を封じられる。
 なおもそちらに注意が往くや否や、男は水を、鋭く細く刃のようにし、ユウキへと放つ。
「真っ二つだ!」
「くっ!」
 バットの風でその刃を散らし、身体を捻り足と上半身が分かれると言うまでにはならなかったが左の上腕にその刃のカケラが舞い、切れる。
「イタタ……っ。風よ、起こして!」
 再度バットに風を集め先を地面へと叩きつけ、ユウキはそのまま影を消し飛ばすと同時に、砂煙を立ち上らせ姿を隠す。
「そのような目くらましで!!」
 男は、再度水の刃を。先ほどよりも大きく多く生みだし、その砂煙を断ち切る。それだけでは飽き足らず、背後の木々まで切り倒していた。
「大人しく『環』を渡せば、そんなバランバランになる事も無かっただろうに……ね!?」
「思い通りで無くてすいませんでしたね!」
 男の上空、ユウキの声が響く。
 目くらまし、それは正しかった。その目くらましは副次的なものだったのだ。ユウキが宙へ舞い上がるための、飛び上がるために風を地面に叩きつけ、風の、空気の足場を作るための物だった。
「飛んだだと!」
「風と光と集まってー!!」
「そんな奇策で! 水! 集まり我が身の敵を裂け!!」
 風の刃と水の刃。互いにぶつかり合い潰しあい、消しあい残った刃が互いの服を、肌を刻み合う。
「くっ!?」
 ユウキの意識が不意に遠くなる。
――使いすぎ!? だってまだ!
 遠くなる意識で近づく地面を感じる。まともに着地すらできないだろうが頭から落ちるのを避けるべく身体を動かそうとするが、ユウキは指の一本もその脳の命令に従おうとしなかった。身体にできた切り傷だけがまだ意識を繋ぎとめているのも自覚している。
 だが……。
「風よ!」その身に風を纏わせる。
「無駄なあがき――――ッ!?」
 男は、再びユウキが風で何かするもの、そう考えていた。否、彼女はその身を弾丸と化し風で自らを加速し男への体当たりを決める。
 ユウキの意識がはっきりしていればわかるのだがその風はユウキの想像以上に集まっていた。
 その、体当たり。男を数メートル弾き飛ばし木々へと叩きつけた。
 よろめきながら男は立つ。目に映るものは、変身が解け横たわる少女。痛みのせいか顔を歪めている。
「人間が! よくも、こんなにしてくれた! このまま一息に命を断ち、その『環』を……」
「彼女をどうするって?」
 冷めた声。もしユウキに意識があったとしてもそのスクーターにまたがった人物にはすぐには思い当たらなかったであろう。
「誰だ――?」
「名乗るつもりは今は無いよ。それより今日は痛み分けって事で引き揚げてくれないかな?」
 冷めた声の男は続ける。――君たち『アルト』の邪魔をする気は今は無いしね。
 男は今の現状、そして自らが万全であっても2人目の男を相手するには心もとない事は理解し、
 悔しそうに、舌を鳴らすと水に溶けるように姿を霧散させた。


 少ししてユウキは目を覚ます。自分が背負われている事、そして少しの振動をその身に感じて。
「あ、起きたかい?」
 その男、クライフは優しげにユウキに声をかけた。
「……勝てませんでしたか」
「十分さ。まだ間もないしまともな実戦だって少ないじゃない。命があるってだけで勝ちさ」
「……はい。助けてもらってすいません」
「お礼を言われる事じゃないし、あんな強いのがいるなんてのは計算外だっただけ気にやまないように」
 極めて明るくクライフは言う。
「スクーターで手放し、二人乗りに過積載ですか、もしかして」
 ユウキは今の状況について口を出す。身体の傷はなおしたとはクライフの弁だ。



「身体の傷は……大丈夫ですね」
 姿見でパジャマを纏った自分の身体を見渡す。傷を受けていたはずの所はその後すら残さず消えていた。痛みも既にない。
 そのユウキの部屋にノックが響く。今のこの家の住人のもう一人、クライフ。
「開いてますよ」
 失礼、と一声かけクライフ。
「先生……君のお父上から荷物だよ」と小さめの小包を差しだす。
 なんでしょうね、と箱を開け進めるユウキ。
 中からは指輪にネックレス、それと一通の手紙が入っていた。
『諒へ
 遺跡から出土したお守りだ。しばらくは帰れないとは思うが身体には気をつけて。
食事は好き嫌いあんまりしないように。
もう一つ送ったがそちらは少し遅れるとは思うがよろしく受け取ってくれ。
 あと、居候へ。
うちの娘に手を出すな、ネックレスはお前が付けとけ』
「相変わらず微妙に簡潔だね、先生は」
「それよりもう一つってのは?」
 首を振りクライフ。届いていないということだ。



「一体これはなんなんでしょう……。クライフさんが言うには魔術の補助だという事ですが……」
 『環』を撫でつつ、本日の出来事を半分夢うつつで思い返す。
 ユウキの部屋のドアが開く。
 そこから覗く影はクライフであった。
「さて、ユウキ君も寝たようだね。それじゃあ行って来ますかな」
 そう言うとドアを閉めて階段を降り家から出て行った。
 クライフはこうして毎夜街のパトロールに勤めているのであった。

 スクーターの音が遠ざかっていく。
「……甘いです……ね。私は……まだ寝ていない……ですよ。クライ……フさ……」
 今度は完全に寝入る。
 この日からがユウキの長い一年、その始まりの夜だったと後に彼女は思い返すことになるのだった。

 

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