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2010/7より開始。 週に一回ぐらいゲームの感想とか雑談とか雑談とか小説とか雑談を書いていきたい。
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 ぼんやりと明るくなり始めた空を片目にして、布団の中の少女は腕を伸ばす。
「う……」
 鐘の間を行き交い音をあげる目覚まし、それを停止させようと頭まで布団をかぶりながらも音の方へ腕を伸ばし、停める。
「もう……朝かぁ」
 手が入りそうなほどに大きく開けた口に、半分起きていない意識を起こすように眼をこすりベッドの上へ腰かける。
 窓の外にうっすらと積もり、まだちらりちらりと降り注いでいる雪。それを見つめつつ身体に火が灯るのを待ちながら彼女自身に起きた事。
 数ヶ月前の彼女に降り注いだ事件をふと思い返していた。
「まだ眠いぃ……やっぱあんなこと、引き受けなけりゃよかったかなぁ……ぁふ」
 その手首に光る『環』を弾き、少女は過去の記憶へと思いをはせた。

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 それは、数ヶ月前の夜の日の事であった。
 月の光すら鳴りを潜めてしまうような暗闇。
 町境の暗闇の森の中を駆けるものが二つ。
 ひとつ。
 人と同じ肢体を持ちながら一目見ればそれとは全く違うと理解できるモノ。
 人類と同じ姿を持ちながらも、何かを取り違えて存在してしまっているモノ。
 理解を超えた人の姿をした異形のモノ。
 そしてもうひとつ。
 それを追い、全身をローブで包み息をあげている男もそこにいた。
「止まれ!! 貴様をそれ以上、密集地に近づけるわけにはいかん!!」
 ローブの男はそう叫ぶが前を走る異形のモノは意にも介さず、後ろを確認することすらせずに走り続ける。
『マチ――マチ――マチマチヒトヒトマチヒト――』
 耳元まで裂けた口を舌なめずり、滑った水をかくような音である。
「実力で止めるのみか! 話を聞かん!」
 言うが早いかローブから右手を異形のモノへと向け、何事かをつぶやく。
 するとその手先には、初めはほんの小さな光。次第に暗闇から光を取り戻す炎が生まれ、前方を走るモノへと飛び出した。

 先に説明しておくが彼は銃などと言う火器を使ったのではない。
 魔法。科学全盛の時代では否定されてしまっていたもの。だが、決して絵空事ではなかった。
火のない所に煙がないように、古来から使える者は存在していた。
 自ら見つけ出したもの、素養のある者同士惹かれあい発見したもの、扉の外から与えられたもの、来訪者に学んだもの。
 様々ではあったが存在し、仕様者同士のネットワークやコミュニティ、そしてそれを利用した小島もあるのが一部には認知されている世界。
 ローブの彼が使用した魔法。
 纏めに纏めて火球とでも表現するべきものは、初歩のモノではあるが使用者によってはそう限られないものであった。

 さて、飛び出して行った火球であるが、見る見るうちにその目標との距離を縮め背中の部分へと直撃をした、が。
『――――! ――?』
 その異形のモノは意にも介さず走り続けた。
「……チィッ!」
 男は舌打ちを一度。瞬き一つの間もそのモノからは目を離していなかったが
「んなっ!? ぶ、ぁ!」
 腹部に丸太を叩きつけられたような衝撃を受け息と、胃液を口から吐き出し衝撃を消すこともできず地面を転がる。
 それは異形のモノの一撃。影の揺れる間にして距離を詰め腕と思われる部位を叩きつけたのだ。
「意に介してないんじゃ……ないのか……ッ!」
 不満げに言うと、木を支えに男は立ち上がる。
 その間も、異形のモノは男に一撃を加えた場所から動かず獲物を見るような眼で男から視線を逸らさずにいた。
『ダレカ ソウ イッタカ?』
「言って、ないなぁ!」
 不意に帰ってきた答えに思わず答える。
 一瞬視線を逸らし、民家の明かりを視界のほんの端に捉え。
(まともに受け答えを。知識もあると考えても不足はなさそうだが……。
 気付かんうちに町に近づきすぎたか、これ以上近づくと飛びこまれる可能性もあり得る。となると少なくとも中級以上を……!)
 魔法というものは詳しく分類できる物ではないが、使いやすさ、普遍的に使える物、
使用者の数などから便宜的に分けると低級、中級、上級と分けられている。
 それも新しく生まれた魔法、資質的に個人のみでしか使えない物などがあり重なってしまうが実際には分類には意味が少ないということになる。
 あえてその分類の中ではピンもキリもあるが仕様者が世界でも10を下るものが中級程度に分類されていた。
ちなみに先ほどの火球は低級である。
 異形のモノとにらみ合いを続けながら男は右腕をモノへと向け、左手首に付けた環を口元に近づけ精神を集中させる。
『――?』
 男のその様子に、首をかしげいぶかしむように、しかし警戒を緩めずじりじりと距離を縮める。
(集まれ――っと、その調子もう少し近づいてこいよ。いまのコイツならヤツと言えどひとたまりも無かろう)
 じりじり、と距離は狭まり異形のモノは恐らくひと飛びで男に攻撃できる距離、5m。
 動いていた二人の時間は止まる。男はもちろん異形のモノも相手が、何かをしようとしているのは理解し警戒を重ねている。
 風が吹き、枝が揺れ、葉が揺れる。男の頬に汗がつたり、髪の毛が肌に張り付く。
長いのか短いのか、互いの二人には一瞬の時間。
「え?」
 場違いな声。
『ガ――ッ!』
 契機に異形のモノが大地を蹴る。刹那、男の目の前に異形の腕が迫り。
「待っていた! 集え星よ!」
 迫る腕を深く腰を落とし回避し、そのまま横っとびに転がり開いた右手を再度モノへと向け直すと力強く言い放つ。
 すると、その周囲に儚く散る蛍のような光が1つ、2つ4つ8つ16、32、無数に集まり、
「『散花』ァ!!」
 向けていた右手を握りしめると、その光がモノに重なり弾け飛ぶ。
『ナ、ナニィ! コ・レ・ハ・ァァ!?』
 地面を揺るがす音と、草木を揺らす風、巻き上がる砂埃。モノがいた地面は半円状にえぐり取られ、男は少し熱を持った風にローブをはためかせながらごちる。
「やったか!? この威力ならば――さっきの声は」
 異形のモノが飛びこむ寸前に響いた声。恐らくは女性の声をこの男も耳にしていた。
 その声の出所を探し頭を振るが、めまいを覚え地面にへと身体が近付いてしまう。
「少し威力をあげすぎたか。帰りの分の力まで使ってしまったか……。
 この辺りで休めるようなところも探さねばな」
 声の出所を探そうと砂埃へ背を向けた時。
 そこから異形のモノが飛び出し、無防備な背中へと一撃を加えそのまま男の四肢を押さえつけ地面へ叩き伏す。
「ん、なっ!? まさか中級さえも……、が、防壁? 魔術防壁!? まさか、こいつらで使えるヤツなぞ聞いた事が!」
 うつ伏せに組みしだかれたまま背中に載っている異形のモノへ睨みつける。
 見た目には異形のモノも満身創痍、だが男もそれを振りほどく力もなければ最初に出した火球すら出せないほどに消耗していた。
『イイ、威力ダッタガ――遠カッタナ』
「大人しく離さんと……もう一度同じものを見舞うぞ!」
 男は、相手の顔が近付く気配を感じ頭を振り上げるが、途中で壁に差し当るかのような感覚で押し止められる。
 互いに満身創痍、男の虚勢を見破ったかのようにモノは男の四肢へと力を込める。
「物理障壁まで……!? う、ぐ、ッ!!」
 絞めつけられながらも首を回しモノの顔をのぞき見、その顔に驚愕を男は隠しきれなかった。
「んだ、ッ。その顔は……」
『気に入って――クレタカ? オ前の記憶カラ、印象をフカイカオだぞ……?』
「ふざけるな! そんな顔で……!!」
 火球すら出せないほどの消耗。だが、両手に炎は集い地面に組みしだかれて接地したままの手から火球を弾けさせた。
 反動で上半身を逸らせ、不意を突かれたモノは押さえつけた四肢を離してしまい男は蹴りを腹部へと叩きこむ。
 男は距離を取り、体勢を立て直すがすぐに膝をついてしまう。
「火事場のなんとかも……」
 相手もふらついてはいるが、異形のモノは得てして人類よりも身体能力が高い。男を腕で吹き飛ばしたようには朝飯前であるのだ。
 男を葬り去ることも今の状態でも可能であろう。
「世界が……回る。まずい、遠い、意識が回る――!」
 膝をついたまま、目眩が上下左右四方八方から迫る感覚。地に足が付いているのかすら定かでは無かったが、異形のモノを睨みつけている。
『トドメ、ヨ?』
 そのようにモノの口が動くのも理解したが身体が重く、男は指先すら自由に動きそうにない。
「アタマガ……!? ワタシガ、ジャマヲスルナ! オレノ、マエカラキエロォォォォ!!」
 覚悟して目を閉じる。異形のモノがなぜか叫びながら駆けるのを感じたが四肢が言う事を聞かないのを自覚していた。
「どぉぉぉぉぉりぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 不意の声。男にとっては先ほども聞いた場違いな声。
 揺らぐ世界に耐え目を開く。そこには、目の前まで迫った異形を体当たりで弾き飛ばす少女の姿があった。
『障壁をコエた……?』
 異形のモノは予想もしていない攻撃を受け困惑を隠せないようだ。そこへ。
「そこのあなた。何をやっているんですか!」
 声は震えている。しかし、異形のモノを見据えて二本の脚は大地をしっかりと踏みしめている。
優しげで、鈴が転がるような声。肩口まで切りそろえた髪は闇に解けるような黒だが、光を放つ黒。
 そして、炎を内に秘めたような不屈の意志を感じさせる瞳。
 ワンピースに薄い上着を重ねたような姿。夜のこの時間に場違いな格好であるが、それが神秘性を無性に掻き立てるような雰囲気を男へと与えていた。
『ナニモノダ!?』
「なんでまだ、こんな所にいるんださっきから! 早く逃げろ! 死にたいのか!!」
 男は叫ぶが少女は気丈に。
「誰かが、傷ついているってのに、見て見ぬふりはできません!! お父さんもそう言ってました!」
 そう言いながらも足は震え、今にも逃げ出したい、早まってしまったかという気持ちと必死に戦っていた。
『震えてイルゾ……勇マシイ、オンナ。
サッキノ、一撃ハ何だ。障壁ヲコエタチカラハナンダ? 何もしてコナイノカ?』
 一歩一歩踏みしめ、異形のモノは少女へと近づいていく。
 そのたびに少女の震えは、わずかに、だが確実に増していっていた。
(このままでは二人とも……障壁を超えた事に賭けてみるしか)
 目の前に立つ少女へ、思いを巡らせ一瞬考えた後に声をかけた。
「君、これを使え!」
 言うや、左手首にはめていた『環』を外し、手渡す。
「これは?」
「早く腕にはめるんだ!」
「は、はい!」
『サセヌ!』
 異形のモノが飛びこもうとするが『環』から光の針が飛び出しその歩みを阻む。
「君の力が本物ならソレを使う事が出来るはずだ!」
「わたしの、力……?」
「そうだ! その腕輪をつけたら『想像』するんだ。その『環』を付けた手首から手、そして両手。
その流れで初めは薄い膜、次に少し厚い膜それを繰り返しグローブのようなもので手が覆われていると考えるんだ!」
少女は言われたように頭で想像する。目の前に非日常が存在している。
その事も手伝い頭の中は言われた事を繰り返す、イメージを強固なものへとしていた。
気付くと少女の両手には、眩いばかりの光のグローブが纏われていた。
「それだ! そのまま僕を信じてあいつに打ちこめ!」
『ソノ光……ィイヤメロオォォ!』
「うちこむ、打ちこむ!! うわぁぁぁぁぁぁ!!」
 狼狽する異形のモノへ向かい光の拳を少女は、叩きこむ!
『イヤダ! キエルノハ! イヤダ、コノママキエテナルモノ――――』
 静寂、異形のモノは夜の闇に解けるように光のグローブが解けるのと同時にかき消えていた。
 少女に残ったのは男に渡された『環』が手首にはまっているだけだった。
「はぁはぁ……嫌な汗。やりましたか?」
 男に問いかける。その問いに首を縦に振り肯定。
「ああ、どうやらそのそうだ。戻れ『元素環』」
 ローブの男はそう言ったが、何ら変化は訪れない。少女の腕に『環』がそのまま在り続けている。
 少女の手を取り、男は『環』を見つめる。
「……こいつは、君が気に入ったようだ」
「え……それってどういう……?」
 疑問の色を隠さずに少女。
「つまり、君にはこの『元素環』を身につけていて欲しい。
それが、この環に認められてしまったものの運命なんだ。
七つの要のひとつ。奪われた六つのうちの一つを取り戻した物だったのだが……。
まさか、姑息な手だったのだが適合者に会おうとは思いもしなかった」
 少女はわけがわからないといった様子で「つまり……わたしに何をしろというんです?」と尋ねる。
「なかなかいいセンスもあったし……、よし!」
 そこまで言うとローブの人物は膝を叩き「君、魔法使いやってみないかい?」
「はい、魔法……使い? あの町の噂とか、テレビで特集されてるような魔法を使う人?
そんなのに私が……? ただの学生ですよ? そんなこと言われたってできるかどうかだって」
「そう、君は選ばれたのだよ。この『環』に。
やりもしない不安なんかどうでもいい。どうしても嫌だったらこの夜の君の記憶を消させてもらいその上で
他の適合者を探す事にするが……。どうする?」
 諭すような声。男としては正直引き受けて欲しいところであるが、意思をないがしろにする気も無く少女の意思へと委ねていた。
 少女はさらに一瞬、悩む素振りを見せたが。
「私、やります。魔法使いやらせてもらいます!!」

 その返事を受けローブの人物はニッと笑顔を浮かべ。
「有り難う。ところで名前すら名乗っていなかったな。ボクは、クライフ。クライフ=タールだ。」
職業はフリーの魔法使い……ってところかな。」
 よろしくと手を出しあい握り合ったところで少女。
「ところで環を成長させるといってもどのようにすればいいのか・・・?」
 クライフはハッとした表情で頭を掻きつつ、そういえば言っていなかったかと。
「魔物とか自分を鍛える事によって『環』は成長する」
「……魔物ってさっきのような奴ですか?」
 きょとんとした表情で問う。
「そうだ」
 クライフは何か考えたような表情で
『だが……さっきのは何かが違っていたような気がする……』
「どうかしましたか?」
 少女はクライフを仰ぐようにして見る。落ち着いてみるとやはり年端もいかない少女。大きく見てもクライフの胸辺りまでの身長だ。
「あ・・・。いや魔物との闘い方についてね。何からいえばいいのかと思っていたのさ。」
基本はさっきのようなのでも何でもいいんだ。
しかし、あのような闘い方では身が持たぬだろうからまずは装備のイメージの修行からだ。
その『環』は使用者に応じて装備を変幻自在、千差万別、月とすっぽんの姿を取る。
さっきは使い方を教えなかったからああいうイメージしやすい方法を取ったが、使用者の成長。『環』の成長によって変化させることもできる」
「ということは。イメージによって形が変わると?」
 左手首に残ったままの金属のような、木でできているような中間の感触を持った『環』 それを見つめて、クライフへと視線を移す。
「なかなか飲み込みがいいね。でも使用者の癖があるからだんだん装備は固定化されていくんだ。」
「では、当分この町にとどまる準備をしなくてはな」
「え、決まって無かったんですか?」
「もともと想定外だったしね。緊急の仕事で一番近くにいたのが僕だったから」
――ああ、相棒も回収しに行かなきゃなぁ、と言うかもう夜も遅いし泊まるところを――
 口元を押さえ考え込むクライフに。
「泊まるところが決まって無ければわたしの家に来ればいいです。部屋も空いてますしお父さんとかもきっと許してくれます」
「ぶっ――ッ!!」
 手が口元から肺からの空気の奔流で吹き飛ぶ。
「君は一体何を言って……」
「大丈夫ですよ。お父さんとかも旅の人連れ込んだりしてますから話すれば少しぐらい家にいてもいいって言います」
 渡りに船の発言だが、一応は恩人の少女への礼儀の意味も込め。
「では……世話にならせていただこうかな」
「お世話させてもらいます」

 

――――――――――――――――

 

「あの時の夢なんて……」
 思い出して笑みがこぼれた。思い返してみれば本当の命の危機でもあったのだが、それはただの思い出。
 今、命がある。そのことに感謝しつつ手首の『環』を撫でる。
「ちょっと~。朝ごはんは何にする~~?」
 クライフの気の抜けた声が聞こえた。
 制服に袖を通しながら通学の支度を整えていく。
「やっぱ、止めておけば良かったかもしれません。魔法使いなんて……」
 ある程度まで準備を終えると笑みを浮かべつつ、同居人との朝食のメニューを考えて下へ降りて行った。
 

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